「ザラは嫌なの? 俺に触られるの」


 気づけば、殿下の顔が極間近に迫っていた。心臓が高鳴るのに気づかない振りをしながら、わたしはそっと目を逸らす。殿下がどんな表情をしているのか、見たくなかった。


「触られるのが嫌っていうより、殿下と関わること自体が嫌です。殿下の存在は、平凡とは対極に位置してますから」


 そう口にしつつ、わたしはギュッと胸を押さえる。冷たいようだけど、それこそが紛れもないわたしの本心だ。


(何が悲しくて、自分から幸せを遠ざけなきゃならないのよ)


 そんなことを考えていたら、唇のすぐ横、頬っぺたに柔らかい何かが押し当てられた。触れたところが熱く熱を帯び、チュッて小さなリップ音がして、ダイレクトに心臓に響く。


「――――人の話、聞いてました?」


 尋ねながら、わたしは眉間に皺を寄せる。気を抜くと表情が緩んでしまいそうで、唇にグッと力を込めた。