これまで殿下は、自分から女性に声を掛けることが殆どなかった。それこそが、貴族の令嬢方が『自分にもまだ可能性はある』と思える心の拠り所だったらしい。

 だから、わたしみたいな貴族ですらないただの魔女が、殿下に声を掛けられることを快く思う人間なんて一人もいなかった。

 そりゃぁ周りは皆、わたしが生徒会に属していることを知っている。それが、殿下がわたしに声を掛ける唯一の理由なんだって。

 けれど、それでも女性は嫉妬をする生き物らしい。憎悪の念を感じる度、寒気がした。



(ダメだ……このままじゃ前世の二の舞だ)


 過去、後宮内で他の妃たちに向けられた嫉妬は、今の比ではない。
 だけど、嫉妬なんて醜い感情、向けられずに過ごした方が断然幸せだ。世の中には、羨望の眼差しを快感に思う人もいるらしいけど、少なくともわたしは違う。


(殿下のクソ野郎。わたしが平凡に暮らしたいって知ってる癖に)

 
 心の中で、とても人には聞かせられない悪態を吐きまくる。