「幸せになる、ねぇ。――――なぁ、自分を偽って生きて、お前本当に幸せなの?」


 殿下はそう言って、真っ直ぐにわたしを見つめた。


(ホント、痛いとこ突いてくるなぁ)


 心臓がズキズキと音を立てて痛む。

 幸せか、幸せじゃないかって聞かれたら、正直今はどちらでもない。前世みたいに不安や恐怖、困惑はないけれど、何をしていても『楽しい』って思ったことは無い。

 だけど、ここで自分を偽ることを止めたら、幸せが――――わたしを幸せにし得る『平凡』が崩れ落ちてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。


「……殿下の方こそ、自分を偽るのはお止めになったらどうですか?」


 悔しいから、わたしは話の矛先を殿下に向けた。殿下はわたしのことを真っ直ぐに見つめながら、ゆっくりと目を伏せる。何気ない仕草。何となく胸がドキドキした。


「皆をガッカリさせちまうからなぁ……無理だろうなぁ」


 殿下はそう言って、困ったように笑う。それが今にも泣き出しそうな表情に見えて、わたしは思わず手を伸ばした。だけど、殿下の頬は別に濡れてなんかなくって。なのに、なんとなく離れがたくて。わたしはそっと目を瞑った。