「結婚するで、いいよな?」
「はい」

母さんを家まで送り尊人のマンションへ向かう車の中で出たプロポーズと言うよりも意思確認のような言葉。
それでも、私はうれしかった。

私が逃げるとでも思ったのか、昨日からの尊人の行動はとても素早くて、来週早々には母さんと徹と三朝のご両親との会食がセッティングされた。
お金持ちでも家柄がいい訳でもない一般家庭の私が尊人の相手でご不満ではないのかと心配したけれど、尊人の話では反対はされていないらしく安心した。
凛人にも二人できちんと伝えようと言ってもらい、近いうちに話をするつもりだ。

「不思議だな」
運転席から前を見る尊人がボソリと漏らした言葉。

「え、何が?」
「あれだけ三朝財閥を継ぎたくないと思っていたのに、自分が父親になると思ったら気持ちが変わってきたんだ」
「それは、どういうこと?」

自分は養子だから、三朝財閥は実子である弟の勇人さんが継ぐのがいいと思っていた尊人。
いつかは勇人さんに三朝コンツェルンを譲りたいって言っていた。

「今はもう逃げだしたいって気持ちはなくなって、凛人のためにも家を守って次世代に繋ぎたいと思えるんだ。もちろん凛人を家に縛り付けるつもりは無いが、父親としての生きざまと言うか背中を見せたいって気分かな」
「へえー、そうなんだ」
男親ってそんなことを思うのねと、私は不思議な気持ちで聞いていた。