翌朝、退院予定時間よりも早く尊人はやって来た。
普段より少し正装感のあるスーツで髪もきれいに整えられ、当然靴もピカピカ。
大きな商談に行くときのような、改まった印象の尊人がそこにいた。

「お義母さんは起きていらっしゃるか?」
病室のドアをノックし、廊下に顔を出した私に尊人が尋ねる。

「ええ。身支度も朝食も終わっています」
「お目にかかりたいんだがいいだろうか?」
「ええ、大丈夫だと思います」

尊人の様子から改まって話がしたいのだろうなと、私は母さんに声をかけてから尊人を部屋に入れた。

「おはようございます。突然すみません、私三朝尊人と申します」

穏やかな口調で話し、きちんと頭を下げる尊人を私は後ろ方から見つめていた。

「佐山沙月の母です」
母さんもにこやかに対応する。

「今日は、ご説明とお詫びに伺いました」

私に言わせると尊人に詫びるところはないように思うが、今は邪魔をするべきではないように感じて黙っていることにした。