会場の混乱に乗じて、近衛に耳打ちをした。
その後、密かに彼から受け取って。
警備が手薄な王城裏手の通用口で待っていた馬車に、ふしだらな男爵令嬢を押し込んだ。


マルタンは驚いていた。
待ち人の公爵令嬢ではなく、王太子の恋人を押し付けられたのだ。


この男は王太子の婚約者だったユージェニーと、学院で人知れず愛を育んでいたが、彼女に口付けも出来ていないので、気の弱い男だろうとは思っていた。
だから、ユージェニーに押し切られて、自分の卒業記念のパーティーなのに出席出来ずに、こんな所で待つ羽目になる。


「この女は王都に置いておけない。
 何処でもいいから、田舎に帰る途中で捨てるなり、売るなりしてくれ」

「あ、だ、だ、第2王子殿下……」

「廃嫡された兄に代わり、私が王太子に立つ。
 ユージェニー嬢はそのまま私と婚約を結ぶ」


これだけで充分だった。
王子の私が自らコレット・モーリス男爵令嬢を連れてきたのだ。
マルタンは受け取るしかなかった。


マルタンが男爵令嬢をどうするのか、私にはどうでも良かった。
言葉通り、実家への途中で捨てても、娼館に売っても。