オリバーがアルオチに駆け寄り、その背中をさすりながら言う。だが、その目は不安に満ちていた。当然だろう。誘拐となれば、被害者の生殺与奪の権を握っているのは犯人である。ちょっとした気まぐれで命が奪われかねない。

「……やっぱり、最初から胡散臭いと思ってたんだよ……」

低い声がした。ヨハンの声である。ゆらりと動く気配がし、桜士は反射的に勢いよく繰り出されたその拳を手で受け止める。ヨハンの目は怒りに満ちていた。

「あのイエティとか言う男の言ってたことは事実なのか?」

もしも、一花と出会う前の桜士ならばあのような電話がかかってきても冷静に対応し、イエティの言葉を「犯人が仲間割れをさせるために吐いた嘘ですよ」と誤魔化していただろう。しかし、想いを寄せている女性に深く関係している人の前で嘘をつけるほど、もう桜士は器用ではなくなっていた。

「ああ、そうだ」

本田凌の仮面を完全に取り、九条桜士の顔で桜士は答える。するとヨハンはさらに顔を歪ませ、怒鳴り付けた。