「地獄耳かよ、おまえ」

「湊斗の声はよく通るんだよ。廊下にまで響いてたぞ。動画がバズったからって、それにかこつけて、デートに誘うとはな……」

「その言い方やめろ! おれが何か悪いことしてるみてーだろ!」


 ふたりがヒートアップしてきた。

 まったくもうっ! これじゃ水と油だよ!

 わたしをめぐって争ってるはずが、わたしは蚊帳(かや)の外なんですけど……。

 もう勝手にして!

 わたしは、カバンを手にして、こそっと教室を出ようとした。


「どこに行くんだ、つむぎ」


 岸くんに、とがめるような声で止められた。


「だから部活に行くんだってば!」


 さすがにムッとして、眉をしかめながら言うわたし。


「まだデートのOKもらってないぜ? それじゃ帰れないよ」


 岸くんは、急に真剣な表情になって、わたしを見つめてきた。

 思わず、ハッと息をのむ。

 クールで、かつ(うれ)いをふくんだ、その表情はズルいよ~。

 すると、望月くんが岸くんを押しのけた。


「吉丸さん! こんなやつの誘いは断わっていいよ。それより、今度の日曜、サッカー部の試合があるからさ。吉丸さんに応援に来てもらえたらうれしいな」


 教室に、さわやかな風が吹いた。

 今度は、望月くんからのお誘いだ!