「うん、この学園で一番の有名人だよ。去年の文化祭、すごかったんだよ」

「そうみたいですね。話には聞いてます」


 紫音センパイはバンドをやっていて、ボーカルとギターを担当。

 去年の文化祭のステージで演奏したとき、それはもうすごい盛りあがりだった。

 女の子たちの黄色い歓声が響く体育館は、異常なほどの熱気につつまれて――。

 わたしは、おそるおそるうしろのほうで見たけれど、その歌声とギターは圧倒的だったことを覚えている。


「兄さんも同じリングをしていて、おそろいなんですよ」


 うれしそうな神谷くん。


「神谷くん、お兄さんと仲良しなんだね。うらやましいなあ。わたし、ひとりっ子だから……」


 お兄ちゃんみたいなイトコはいるけれど……。

 賢ちゃんのことが思いうかんで、思わず吹きだしそうになった。

 紫音センパイがお兄ちゃんだったら、鼻が高かっただろうなぁ。


「うらやましい……ですか?」


 神谷くんの瞳に、悲しみの影がやどったように見える。


「……? フツーにうらやましいよ。あんなカッコいいお兄ちゃんがいたら自慢しまくるし! それに、神谷くんもカッコいいし、兄弟そろってイケメン王子なんて……」

「比べられちゃうんですよね」


 わたしの話をさえぎるように、神谷くんが話しはじめた。