わたしが目をしばたたくと、望月くんはささやいた。


「あのとき言ったでしょ?」



 ――おれ、きみの涙をぬぐえる男になりたいよ。



 電車のなかでのささやきが、まだ耳に残っていた。

 ぐっと、望月くんのりりしい顔が寄ってきて。

 キスされるっ!?

 そう思ったとき――。



 ――おれ、つむぎに本気で惚れたんだ。



 岸くんの声が、頭のなかに響いた。

 それはまるで雷鳴(らいめい)のようで……。

 次の瞬間、望月くんのくちびるから逃れるように、わたしは顔をそむけていた。


「あっ……ごめんね」


 望月くんはハッと我に返って、あわててからだをうしろに退()いた。


「ううん……」


 わたしは首をぶんぶんと横にふった。

 望月くんを責める資格なんて、わたしにはないから……。



「……おれ、吉丸さんのこと、マジで好きだよ」
 


 望月くんは、わたしをまっすぐに見つめて、迷いなく言いきった。

 どきんと、心臓が大きく跳ねる。


「望月くん……わたしは……」


 声が震える。

 すると、わたしの言葉を引きとるように、望月くんが口をひらいた。


「湊斗が好きなの?」

「――っ!」


 やさしくほほ笑んでいる望月くんにそうたずねられ、わたしは固まってしまった。