やがて煙が晴れると、黒猫は消えていて……。

 その代わりに、クスノキにもたれている女性があらわれたんだ!

 黒いワンピースに身を包み、ウェーブのかかった美しい黒髪は腰までのびている。

 うつろな表情でわたしを見つめているその瞳は、海の色をしていて、涼やか。

 肌は色白で、手足は細長く、モデルみたいにスリムな体形だ。

 妖しいまでに美しくて、背すじがゾクッとするほどだった。


「お願いだから、逃げたりしないでよね」


 女の人は弱々しい声で言って、薄く笑った。


「はあ……」


 ぽーっと、穴があくほど女の人を見つめていたわたしは、こくりとうなずいて、

「逃げたりは……しないですけど……」

 と言うのが精一杯。

 本当は逃げだしたかったけれど、からだは石のように固まっている。


「あたしは魔女なの。魔法で黒猫に変身していた……と言ったら、信じる?」


 そうたずねると、女の人は、わたしを試すように、じっと見つめてきた。


「えっ……」


 魔女!?

 さすがに言葉に詰まる。

 だけど、「信じない」とは言えないよ。

 だって、わたしは、この目で見たんだもの。

 黒猫が、女の人に姿を変えるのを!