「ここに入ろう!」
望月くんに手を引かれ、なぜか岸くんから逃げることになったわたし。
工藤さんにつかまったのか、岸くんは追ってこなかったけれど。
南校舎の一階まで降りたあと、教材準備室のカギがあいていることをたしかめて。
望月くんは戸をあけて、ためらうことなく、なかに入っていく。
仕方ないので、わたしもあとにつづいた。
中にはだれもいない。
ようやく望月くんが手をはなしてくれて、緊張で手汗がひどいことに気づいた。
ガチャリ。
望月くんがカギをかけたから、ドキッとしたけれど。
「ここに入るのはおれ、はじめてだ」
のんびりした声を出したから、なんだか拍子ぬけした。
「わたしは何度かあるよ。教材を返却するのを先生に頼まれて……」
ここは教材のほか、丸められたポスターやら、三角コーンやら、さらに運動会で使う看板なんかが乱雑に置かれている。
ほとんど倉庫みたいになっている部屋だ。
「吉丸さんはおとなしいからなぁ。先生も頼みやすいんだろうな」
「……かも」
望月くんに言われて、わたしは苦笑いした。