ズルイよ。

 これじゃ、「やっぱりダメ」って言えなくなるよ。


「吉丸さん!」


 渡り廊下に走りこんできたのは――望月くん!

 サッカーのユニフォーム姿で息を弾ませている。


「望月くん……」

「なんだよ、葵。おまえ、部活中じゃねーのかよ」


 眉間にしわを寄せる岸くん。

 立ちどまった望月くんは呼吸を整えつつ、ゆっくりと言った。


「……そうなんだけど、湊斗と吉丸さんがいっしょにいるのがグラウンドから見えてさ。トイレ行くフリして、ぬけてきた」


 岸くんはあきれたような表情になって、

「わざわざ下からダッシュしてきたってワケ? ご苦労なこった。まっ、快足ウイングのおまえにとっちゃ軽い調整だろうけど」

 と、首のうしろをさすった。


「吉丸さん、そいつから離れたほうがいい。湊斗はいい加減で、女ったらしなんだ」


 真面目くさった顔で言いはなつ望月くん。

 ええっ!?

 というか、ふたりは仲がいいの?

 下の名前で呼びあってるし、互いのことをよく知ってるような話しぶり。

 ふたりがいっしょにいるところって、見たことない気がする。