「ああ、やっぱ、こっちのほうがイイんだよな」


 言いながら、リハーサル動画を再生する岸くん。

 じょうろでお花に水やりしている(フリだけど)わたしが、踊っている岸くんのうしろに映りこんでいる。


「こっちをアップしてもイイか?」

「ええっ! だって、ネットにはアップしないって……?」

「そのつもりだったし、本番は工藤に立っててもらおうかと思ったけど、アイツ、花に水やりってガラじゃないだろ?」

「…………」


 その件はノーコメントでいきます。


「結局、おれひとりで撮ったんだけどさ、ありきたりの動画になってんだよ。断然、リハーサル動画のほうが画になってるよ」

「そうかなぁ? わたし、岸くんのダンスの邪魔になってると思うけど……」

「そんなことねーよ。いいアクセントになってる」


 岸くんは折れてくれない。よっぽど気に入ったみたい。

 まあ、わたしは顔が判別できないほど小さく映りこんでるだけだし、べつにいいかな。


「岸くんがそんなに気に入ってるなら……わたしはいいけど……」

「ホントか!? ダメって言われたらどうしようかと思ったぜ」


 岸くんは手すりに背中をあずけて天を仰ぎ見た。

 大きく息を吐いたあと、わたしに視線を送る。


「ありがとうな」


 いつもクールな岸くんが、整った顔をくしゃっとさせて笑った。