「悪ぃな、佐々木」

「ううん、いいのよ」


 顔を赤らめながら岸くんに言うと、佐々木さんはわたしに耳打ちした。


「男子は怒るだろうけど、あたしとしては、つむぎちゃんに幸せになってもらいたいからさ。ふたりを応援することにしたよ」


 ううっ、そこまで言われては無下(むげ)に断るわけにもいかないよ。


「あ、ありがとう、綾乃ちゃん。じゃあ、ちょっとだけお願い」


 佐々木さんにまかせて、わたしと岸くんは図書室を出た。


「あっち行こうぜ」


 ポケットに手をつっこみ、スタスタ歩く岸くんのあとをついていく。

 岸くんは一番強い暗示にかかっちゃってるような気がする。

 何を言われるんだろう?

 逃げだしたいキモチと、ふたりきりで話したいキモチと。

 岸くんが立ちどまったのは、北校舎と南校舎をつなぐ渡り廊下だった。

 手すりに両腕をのせた岸くんの横に立つわたし。

 中庭の花壇が見下ろせるけれど、最上階だから、下を向くのはちょっとこわい。


「「この前は……」」


 話しだすタイミングと、言葉までカブったから、わたしたちは顔を見あわせて苦笑いした。