「おじゃましまーす!」


 学校帰りに、勝手知ったる賢ちゃんの家にあがりこんで、階段を駆けあがる。

 この時間、おばさんはパートに出ていていない。


「賢ちゃん、入るよ?」

「ちょ、ちょっと待って!」


 賢ちゃんの部屋の中から、あせっている声がした。


「あっ、どうぞー」


 ドアをあけて、中に飛びこむわたし。

 イスに座っている賢ちゃんが、くるっとふり返った。

 息を切らしているわたしを見つめる賢ちゃんは、室内なのに大きな黒いサングラスをかけている。


「どうしたの、それ……?」

「つむぎと直接目を合わせないためさ。念のために、ぼくから半径1メートルは離れてくれ」

「わかったよ」


 イラッとしたけれど仕方ない。

 賢ちゃんは、暗示にかけられてしまったのが相当イヤだったみたい。


「魔除けの水晶玉をつむぎに貸しちゃったからね。この部屋にいる間は返してくれると助かるんだけど……」

「えっと……それなんですけど……」


 わたしは、ハンカチをローテーブルの上に置いて広げた。


「んん……その破片は何かな……?」


 そう問いかけてくる賢ちゃんの笑顔がこわい。