せせら笑った早野くんに激怒したのは岩田くんだ。


「地味とは何だ! おれの天使に向かって!」

「天使だあ? 笑わせんなよ」

「なんだテメー!」

「やんのか!?」


 岩田くんが早野くんの胸ぐらをつかんで、もみあいのケンカになった。

 た、大変だ! 止めなきゃ!


「や、やめて。ふたりとも、やめて……」


 わたしの蚊の鳴くような声が、興奮しているふたりに届いたとは思えない。


「やっちまえ、岩田!」

「早野っち、負けんな!」


 ふたりの取っ組みあいを、周りのみんながはやし立てる。

 エキサイトしたふたりの足が、レンガの仕切りを超えて、花壇のなかに入ってしまった。


「あっ……」


 コスモスとパンジーが踏み荒らされるっ!

 血の気が引いたそのとき――。


「やめろっ!」


 雷のような激しい声に、中庭に流れる時間が止まったよう。

 岸くんの一喝だった。

 しーんと静まり返り、岩田くんと早野くんが互いに手をはなしたから、ホッと息をつくわたし。


「おまえら、花壇から出ろよ」


 岸くんに言われて、しぶしぶ、ふたりは出た。