「笑ってんじゃねーよ。恥ずかしいマネするな」


 岸くんの静かな声のなかに、激しい怒りがこめられていて、笑い声が止まった。


「ヤダ、きっしー、急にキレないでよ。どうしたの?」


 あせったように工藤さんが言ったけど、岸くんはだまったままブレザーを拾いあげた。

 岸くん、怒った?

 もしかして、わたしのために……?

 混乱しつつ、この場を離れようとしたら――。


「つむぎちゃん! やーっと見つけた!」

「ずっと探してたのよ! 急に走って行っちゃうんだもん」


 小村さんと佐々木さんが駆けよってきた。

 わわっ。

 さらにそのあとを、岩田くんや岡くんたちクラスメイト六人が追いかけてきた。


「吉丸、おれとツーショット撮ってくれよ」

「おれも、おれも!」

「わたしもー!」


 魅了の魔眼で、特に強い暗示にかかっちゃってる計八人にとり囲まれてしまった。


「なんだよ、コレ……」


 岸くんの取り巻きたちが、呆気にとられている。


「A組って、吉丸さんが人気者なの? 何かの悪い冗談?」


 工藤さんの言葉に、佐々木さんがかみつく。


「冗談なんかじゃないわ! つむぎちゃんはA組のアイドルよ、アイドル!」

「はあ? そんな地味な子が、なんでアイドルなんだよ。バカか」