とっても不思議な状況だった。

 学園の四人のイケメン王子のひとり――岸湊斗くんとふたりきりっ!

 わたし、岸くんには魅了の魔眼を使ってない。

 それでも、こうして話せている。


「出演といっても、そこに立って水やりしてるだけでいいからさ。女の子が水やりしてる花壇をバックに踊ったら、MVみたいになるかも」

「でも、これ以上、水は……」

「ああ、もちろんフリでいいよ。リハーサル動画だからネットには上げないし……。どうかな?」

「は、はい。水やりしているフリでいいなら……」

「よし、きまりっ! ありがとうな」


 クールな岸くんの表情がはじめてほころんだ。

 キュン。

 胸が苦しくなった。

 今の笑顔は、わたしに……わたしだけに向けられたものだ。


「……あとさ、タメなんだから敬語やめないか?」


 照れくさそうに頬をかきながら岸くんに言われてしまった。


「う、うん……」


 こくりとうなずくわたし。


「おっと、昼休みが終わっちまう。パッと撮っちまおう」


 岸くんはブレザーをサッと脱いで、乱暴に投げ捨てた。

 何気ない行動の一つひとつがカッコいい。