そのあとも、暗示をとこうとするタイミングを逃しつづけた。


「あの~、お母さん。お願いしてた、おこづかいアップの件だけど……」

「もちろんOKよ」


 おおっ!


「お母さん、今日は勉強しなくていいよね?」

「いいわよ。ゲームでもして息抜きしなさいな」


 やったああああああ!

 魅了の魔眼って、なんて素敵なの!

 賢ちゃんは迫ってきたから困ったけれど、口やかましいお母さんはひたすらやさしくなっただけ。

 暗示をとく必要なんかないでしょ。



     * * *



 翌朝、わたしは胸を張って登校した。

 教室の“空気“だったわたしは、伏し目がちに、目立たぬように行動していたけれど。

 それは、ひとりぼっちだったから。

 でも、今のわたしには魅了の魔眼という武器がある!


「おはよう!」


 教室に入るなり、笑顔で元気よくあいさつした。

 こんなに大きな声が出たんだ、と自分でもびっくり。


「おはよう……」


 先に来ていた子たちから、まばらにあいさつが返ってくる。

 みんな顔を見あわせ、とまどっているみたい。

 わたしは自分の席にカバンを置くと、うしろでしゃべっている小村さんと佐々木さんに近づいていった。