――暗いなぁ。


 聞こえよがしなそのつぶやきは、わたしの胸にトゲのように刺さった。
 

 ――吉丸さんって、暗いよね。


 もう何十回、何百回と言われたけれど、慣れることなんてない。

 言われるたびにしっかり傷つく。

 女子に陰口をたたかれているのを偶然聞いてしまったこともある。

 ほかに、わたしの知らないところでも、きっと笑われているに違いない。

 ふたたび本をひらいたものの、わたしの目線は文字をすべっていくばかり。

 担任の矢島先生が入ってくるまで、意識がファンタジー世界に飛ぶことはなかった。


「おーい、席につけよー」

「やべっ!」


 席を立っていた子たちは、蜘蛛の子を散らすように、それぞれの席に向かった。

 すると、遅れて小村さんと佐々木さんが入ってきて、矢島先生の眉間にしわが寄る。


「こーら、遅いぞ」

「ごめんなさーい」


 ふたりがキャッキャ言いながら席につく。

 すると、岩田くんが口をとがらせた。


「先生ずりーよ。女子には甘いんだからなあ」

「ん? 先生は男女で差をつけたりしないぞ?」


 心外だというように腰に手をやる矢島先生。