そう、おれは吉丸つむぎのことが好きだった。

 一年生のときからだ。

 おれ、岸湊斗はダンスに夢中だった。

 幼なじみの望月葵を裏切って、サッカー部ではなく、ダンス部に入部してしまった……ということもある。

 おれは、葵みたいにはなれない。

 だから、サッカーから逃げたんだ。

 葵に対して引け目があったし、「ダンスからも逃げたら、おれはこの先、ずっと逃げつづけるだろうな」という恐怖感もあった。

 とにかくダンスに打ちこむことでしか、自分の心を守れなかったんだと思う。

 学園のイケメン王子だの、ダンス王子だのとよばれ、女子にチヤホヤされたけど、おれの頭には「ダンスがうまくなること」しかなかった。

 ラブレターをもらったり、告白されても、ぜんぶ断わった。

 逆うらみされ、「ダンス王子は女たらし」とかふざけたウワサを流されることもあったが、べつにどうでもよかった。

 ダンスの実力を、世間に認めてほしかった。

 そんなとき、おれは、つむぎの存在を知った。

 校庭の片すみの花壇で水やりしている女子に、なぜか目をうばわれたんだ。

 園芸部の当番だろうか。

 水やりしている姿に、おれはトゲトゲしている心が安らぐのを感じた。