「そういうことか……」


 わたしが話しおわると、賢ちゃんは眼鏡を指で押しあげ、大きく息をついた。


「なるほど。さすが黒魔女。一筋縄ではいかない、狡猾(こうかつ)な魔女だったんだな」


 皮肉めいた口調で言うと、賢ちゃんはわたしをじっと見た。


「でも、あまり考えこまなくてもいいんじゃないか? 元の状態に戻るだけだからな」

「…………」

「って、そりゃ無理か」


 髪をくしゃっとして、苦笑いする賢ちゃん。


「魅了の魔眼で、つむぎにとって居心地のいい世界が出来あがってたからな。それをうばわれて、平気でいられるわけないよな」

「わたしは最初、みんなを暗示にかけてしまうことがこわかった。だから、早くからだから魔石がなくなればいいと思っていたのに……。いつのまにか、そういう状態になれきっていたの……」


 うなだれるわたしに、賢ちゃんが明るい声で言った。


「ちょっとつきあってもらうぞ」



     * * *



「どこ行くの?」

「いいからついてこいって」


 イヤだって言ったのに、賢ちゃんに無理やり連れだされてしまった。

 空はすっかりオレンジ色にそまっている。

 結局、湊斗くんのダンス、見られなかったな……。