あんなに魔石を取りのぞいてほしかったのに……。

 それがかなったのに……。

 大切なぬいぐるみを取りあげられた小さな子どもみたいに、わたしは絶望を感じている。


 ――イヤだ!


 あの魅了の魔眼がなかったら、わたしは……。

 よろよろと立ちあがり、校舎に戻った。

 トイレに入って、鏡にうつった自分と向かいあう。

 ワインみたいに赤くなっていた両目が、すっかり元通りだ。


 ――ウソだ! ウソだ!


 わたしはトイレを飛びだして、廊下を走った。

 いたっ! 小村さんと佐々木さんだ!


「楓ちゃん! 綾乃ちゃん!」


 飛びつく勢いで声をかけると、ふたりとも、いぶかしげな視線を向けてきた。


「吉丸さん、何か用……?」

「え……?」


 小村さんの冷たい反応に、言葉を失う。

 すると、佐々木さんが眉をしかめながら口をひらいた。


「今、ちょうど楓と話してたんだけどさ……。あたしら、なんで吉丸さんと仲よくしてたのかなって……。たぶん、何かの気の迷いだったと思うんだよね」

「綾乃ちゃん!」


 わたしがすがりつくと、佐々木さんはおびえた表情になった。


「えっと……下の名前でよびあうキョリ感じゃ、なくない? なんか、こっちが勘違いさせてたら、ごめんね」


 ふたりは、逃げるように去っていった。