「ありがとうな」


 うれしそうに、目を細める湊斗くん。

 わたしの好きな表情だ。

 あの悪夢のなかのこわい湊斗くんとは、まったく重ならない。

 こっちの、いつもやさしい湊斗くんこそが本物なんだ。

 そう思ったら、安心して、鼻の奥がつーんとして――。

 視界がにじんで、すぐに頬を涙がつたう。


「えっ!? なんで泣くんだよ!?」


 湊斗くんは、すっかりあわてふためいている。


「おれ、なんかヘンなこと言ったか……?」


 この感情は、うまく言葉にならない。

 わたしは、ベッドのふちに座ったまま、首を横にふることしかできなくて……。


「まいったな。おれ、葵みたいに気のきいた対応できねーぞ」


 言いながら、湊斗くんはわたしをぎゅっと抱きしめた。

 ふわりと、甘い香り。



「もう泣くなよ。泣きやむまで、ずっとはなさないぜ?」



 湊斗くんの体温と胸の鼓動が伝わってくる。

 さらにやさしい声が耳に入ってきて、とめどなく涙が流れる。

 どくん、どくん。

 わたしの心臓も、湊斗くんの心臓も、激しく踊っている。

 こ、これ以上は限界だよ!

 心臓がバクハツしちゃう!