「でも……あの暗い場所で、よくわたしだってわかったね?」

「そりゃ、三十分もあのなかにいたら目もなれてくるって。それに……声がきこえたからさ」


 鏡越しに教えてくれる湊斗くん。

 声だけで、わたしってわかってくれたんだ!

 ほとんど絶叫しかしてないと思うけれど。


「神谷怜音だっけ? 例の一年坊といっしょだったろ?」

「あう……。うん……」


 ちょっと気まずい。


「まあ、いいや。今日のダンスパフォーマンスで、ライバルたちに差をつけてやる!」


 ふり返った湊斗くんは、いつもの髪型、いつものクールな表情に戻っていた。

 そして、時計を見やると。


「もう一時半か……」

「ダンス部のステージは二時からでしょ? わたしのことはいいから講堂に行って。早野くんたちも向かってると思うし……」

「でもな……」


 まだ心配げな湊斗くんに、わたしはほほ笑みかけた。


「ちょっと休んでから、わたしも講堂に行くから……」

「えっ……じゃあ、おれのほうをえらんでくれるのか?」


 わたしは、返事する代わりに、こくっとうなずいた。

 紫音センパイには悪いけれど、そうしようと決めていたんだ。