「あれ? だれもいねぇな」
わたしをお姫さま抱っこして、保健室まで運んでくれた湊斗くんがつぶやく。
保健室の先生も、ベッドで寝ている生徒もいない。
「とにかく横になってろよ」
湊斗くんがベッドに寝かせてくれたけど、わたしはすぐ上半身をおこした。
「ありがとう。でも、もう大丈夫だから……。ちょっとびっくりしただけだし……」
「そうか? あんまり無理すんなよ」
湊斗くんは眉を下げたあと、クスッと笑った。
「でもよ、腰をぬかすなんてな……」
「笑わないでよ! あのお化け屋敷、こわすぎだってば!」
わたしがぷく~っと頬をふくらませると、湊斗くんは口に入れていたキバをとった。
もちろんニセモノだ。
「うちのクラスに演劇部のやつがいるからな。衣装やらメーキャップやら、ぜんぶ本格的なんだよな」
演出も計算されつくしていて、すごかった。
賢ちゃんと遙さんだったら喜びそうだなぁ。もう行ったかな?
湊斗くんは、備えつけの洗面所の鏡を見ながら、オールバックの髪をおろしはじめた。