「どうしたんだ? 立てないのか?」

「うん……」

「足首ひねったか?」

「ううん、足は大丈夫。腰がちょっと……」


 腰がぬけたなんて恥ずかしい……。


「ぬけたのか。よし、保健室に行こう」


 迷いなくそう言ったかと思うと、湊斗くんはひょいっとわたしを抱えあげた。


「あれ? 吉丸センパイ? どこですかー?」


 怜音くんがわたしを探している声がしたけれど、湊斗くんはかまわず、わたしを外に連れだした。


「えっ、吉丸ちゃん、どうしたの!?」


 廊下にいた早野くんと工藤さんが目を丸くした。


「ちょっと具合が悪くなったらしい。保健室に連れていくから、あとは頼むぞ!」

「わかったわ!」


 工藤さんが、真剣な表情でうなずいた。

 腰がぬけたことは言わず、「具合が悪くなった」と言ってくれた湊斗くんの機転には感謝しかない。

 湊斗くんは、わたしを抱えたまま、スタスタと歩いていく。

 混みあっている廊下も、みんながサアッときれいに道をあけてくれた。


「ドラキュラがお姫さま抱っこしてる!」

「きゃあ! ダンス王子よ!」

「あの子、吉丸さんじゃない?」

「ダンス王子が、A組のアイドルをお姫さま抱っこしてるよ!」