「あっ、そういえば兄さんに五千円、返したそうですね」

「うん……」


 わたしがうなずくと、怜音くんはうらめしげな表情になった。


「ぼくがおごるってカッコつけてたのに、これじゃ(かた)なしじゃないですか。あのカフェ、また近いうちに行きましょう。次こそ、ご馳走(ちそう)させてください」

「うん。楽しみにしてる」

「約束ですからね!」


 いつもの人なつっこい笑顔に戻った怜音くんは、去りぎわに言った。


「兄さん、目の色を変えてバンドの練習にはげんでますよ。文化祭で、吉丸センパイに最高のステージを見せるんだって……」

「紫音センパイが……」

「べつに兄さんの肩をもつワケじゃないですけど、あくまで情報として、吉丸センパイの耳に入れておこうかと……」


 横暴で、かつ才能のかたまりのようなお兄さんをうとましく思いつつ、それでも憧れていて、何より大好きなんだね。

 今日も、怜音くんの右手の薬指には、あのシルバーリングが光っていた。



     * * *



 グラウンドをあとにして、家に帰る前に、賢ちゃんの様子を見ていこうと思った。

 あれから連絡がないから、魔石を取りのぞく方法はまだ見つかってないはず。

 それよりも、健康状態が気がかりなんだよね。