「だって、しょうがなかったんだよ。お礼だって言われてね。その……カフェでいっしょにパンケーキ食べて、おしゃべりしただけ。すぐに紫音センパイが来て、ムチャクチャになっちゃったし……」

「いいよ、許してやるよ。そのかわり、おれのことも下の名前よびしてくれないか?」

「う、うん、そうするよ……。湊斗くん……」


 はじめて岸くんのことを名前よびしちゃった!

 ドキドキと、心臓が早鐘を打ちはじめる。


「スゲェうれしい……」


 うれしそうに目を細める湊斗くん。

 あっ、今の表情、好きだな。


「しっかし、おかしなコトになっちまったな。神谷センパイと勝負かよ。……まっ、どっちをえらぶか、それはつむぎの自由だけど……」


 湊斗くんの表情に、警戒の色が浮かぶ。


「アイツ、あの手この手で、つむぎに迫ってくるはずだ」


 たしかに、妙に自信ありげだったもんね。

 文化祭までの間に、いろいろ仕かけてきそう。


「でもよ、明後日、ついにつむぎとデートだからな! つむぎをふり向かせる大チャンスだぜ!」

「湊斗くんてば! 葵くんの試合の応援に行くんだからね?」

「葵は名前よびしなくていいんだよ!」