「でもよ、あんまナメた態度とってると、シメちまうぞ」


 紫音センパイの声が、威圧するような調子へと変わった。

 やっぱり、このひと、こわいっ!


「殴りたいなら、どうぞご勝手に。その代わり、反撃しますよ。センパイだろうが、何だろうが、ゆずれないものってあるんで」


 岸くんの瞳から、ゆるぎない覚悟を感じて、胸の奥がじーんと熱くなる。


「…………」


 無言のまま、紫音センパイの右手が動いた。

 岸くんが殴られるっ!

 ケンカになったら、わたしには止められない。

 先生をよびにいこうとしたら。

 紫音センパイは、岸くんの髪をくしゃっとした。


「イイ顔するようになったじゃねーか、この野郎」


 口角を上げて、にんまりとしている紫音センパイ。


「殴らねーよ。この手はな、ひとを殴るためのものじゃねーんだ。ピアノとギターを弾くための手だからな」


 何よ、それ――――っ!?

 とにかく殴りあいは回避できたみたいで、ホッとするわたし。


「じゃあ、最初から脅さないでくださいよ……」


 岸くんは、ぶつぶつ言いながら手ぐしで髪を直している。

 この前、わたしが岸くんにやられたことだ。

 それを思いだして、クスッとなった。