紫音センパイに壁ドンされ、あごクイされ……。

 さらにキスされようとしたとき――。



「つむぎからはなれろっ!」



 凄みを感じさせるさけびで、わたしはハッと我に返った。

 紫音センパイの肩越しに、息を切らしている岸くんと目が合う。


「岸くん……」

「岸……?」


 眉根を寄せて、けだるそうにふり返る紫音センパイ。

 今にもつかみかからんばかりに、目をギラギラさせている岸くんが立っていた。


「ああ、おまえか」


 紫音センパイは髪をかきあげながら、岸くんに近づいていった。

 岸くんは二年では背の高いほうだけど、紫音センパイとくらべると小さく見えてしまう。


「二年のイケメン王子が、おれに何の用だ?」


 さすがの岸くんも少しひるんだみたい。

 だけど、負けまいとして、キッと紫音センパイをにらみつけて。


「つむぎに何しようとした?」


 怒りに満ちた声を出す岸くん。


「おれにちょっと脅されたくらいでビビってた一年坊が、言うようになったじゃねーか」


 紫音センパイは、皮肉っぽいほほ笑みを浮かべると、

「おれは部活やってねぇからよ、上下関係にはうるさくないほうなんだよ」

 と言って、岸くんの肩に手を置いた。