紫音センパイの言いたいことは痛いほどわかる。

 でも……。


「怜音くんは、ピアノは自分に向いてないと考えているんですよ。べつの何かを探すなら、それを応援してあげるのも……」

「アイツはまだガキだ! 向き不向きがわかるワケがねえ!」

「怜音くんは、わたしよりずっと大人です! 冷静に自分を見つめる力があると思うんです!」

「…………」


 紫音センパイは急にだまりこくって、わたしの向かいに立った。

 おもむろに、右手が飛んできて――。


「きゃっ!」


 殴られるっ!

 思わず目をつむったけれど、何もない。

 紫音センパイは壁に右手をそえて、ぐっと顔を近づけていた。

 こ、こ、これは、壁ドンというものでは……!?


「今日も赤いな、つむぎの目は……」


 にやりとする紫音センパイの澄んだ瞳が、すぐそこにある。


「ね、寝不足なんです!」


 昨夜は紫音センパイの夢にうなされ、眠りが浅かった。


「やっぱり、つむぎは魔性の女かもな。このおれが、ペラペラと本心を話しちまうんだからな……」


 そう言って、紫音センパイは、わたしのあごを手でクイッと持ちあげた。

 今度は、あごクイだ!!



「おれとつきあってくれないか?」