「お袋も、昔、オーケストラでフルート奏者やってたんだ」

「へえ! すごい!」

「まあ、そういう環境だから、おれも怜音も、小さいころからピアノを習ってきたんだ。親父の友だちがやってるピアノ教室に、ずっと通ってる」


 紫音センパイは、長い髪をかきあげた。


「家にはグランドピアノがあるし、防音室もある。まあ、音楽一家なワケだ」


 音楽一家! すごいなぁ。憧れる!


「親父としては、自分みたいにピアニストになってほしいんだろう。お袋もそれを望んでる。おれも……ピアノは好きだ。自分の内面を繊細に表現できるからな。腕前もそこそこのレベルまで上がった」

「あ……でも、紫音センパイはロックバンドやってますよね? 去年の文化祭の演奏、すごかったです!」


 わたしが口をはさむと、紫音センパイは照れくさそうに頬をかいた。


「なんだ、つむぎも来てくれてたのか。中学に上がってからロックにも興味出てな。ピアノと並行してやってる」


 紫音センパイは、まさに音楽をやるために生まれてきたようなひとだ。