どんどん不機嫌そうになる紫音センパイ。


「いや、返すにしても、五千円はねーだろ。釣りだけでいいんだよ」

「そういうわけにもいきません」

「はあ? 堅苦しいやつだな。大体、怜音のやつ、おごろうとしてたんだろ? だったら、返す必要ねーんだよ」

「いえ、それはおかしいです。怜音くんにおごってもらうならいいですけど、これだと、紫音センパイにおごってもらうことになっちゃうので。だったら、わたしが怜音くんの分も払います」

「…………」


 紫音センパイは魔眼の暗示が弱いのかなぁ?

 わたしに好意をもっているのは明らかだけれど、いら立ちや怒りの感情もフツーに向けてくるからこわい。

 でも、こっちにも意地がある。

 緊張でからだをこわばらせていたら。

 紫音センパイは、ぷっと吹きだした。


「なんだよ、おもしれぇやつだな、おまえ。あはは」


 とうとうお腹をかかえて笑いだした。

 このひと、こんなに無邪気に笑ったりするんだ……。

 笑顔には怜音くんのようなあどけなさも感じられて、やっぱりふたりは兄弟なんだ……と思った。