「おまえ、大げさなんだよ。男の兄弟なら、あんなのフツーだぜ?」

「それは知りませんけど、これは怜音くんの傘なので。紫音センパイから渡してあげてください」

「わーったよ」


 ため息をつきながら、もう一度、今度はやさしく受けとる紫音センパイ。


「……じゃあな」

「あっ、ちゃんと傘さしてください」


 わたしは、紫音センパイの背中に向けて言った。


「あーん?」

「紫音センパイはともかく、これ以上ぬれたら、ギターケースがかわいそうです」


 見とれてしまった気恥ずかしさをかくすように、憎まれ口をたたくわたし。


「このケースは完全防水なんだよ! これくらいの雨でどうこうなるかよ」


 紫音センパイは、肩にかけていたギターケースを背負いなおすと、言葉とは裏腹に、しっかり傘をさして歩いていった。


「ふぅ……」


 その大きな姿が暗闇にとけて見えなくなると、わたしは大きく息を吐きだした。

 わたし、三年生のイケメン王子・神谷紫音センパイまで暗示にかけちゃった!

 これで学園の四人のイケメン王子全員が、わたしに好意を持っていることになる。