し、しまったあ!

 紫音センパイと目が合ってしまった!

 それも、息がかかるほどの至近距離で!

 紫音センパイのつりあがった瞳は、こちらの心のなかを見通してしまいそう……。


「おまえ、目が赤いな」


 ドキッ。

 紫音センパイが、さらに顔を近づけて、のぞきこんできた。

 目をそらしたいのに、そらせないっ!


「ね、寝不足なんです!」


 あわてて言うと、紫音センパイはニッと、はじめて口元に笑みを浮かべた。


「赤い目をした女には用心しなきゃな。心をあやつられちまう。魔性の女ってやつ……?」


 早鐘を打っていた心臓が止まるかと思った。

 まさか、このひと、魅了の魔眼に気づいた!?


「なーんてな。おまえ地味だもんな。そんな魔性はなさそうだ」


 意地悪そうな笑い声をたてる紫音センパイ。

 何なの、このひと!

 カッコいいイケメン王子だと思っていたのに!


「でもよ、なんか、おまえのこと気に入ったわ」


 ああ、ハイハイ。

 しっかり魅了の魔眼の暗示にかかってるみたいだ。

 でも、わたしに好意をもったからって、わたしの思いどおりに行動してくれるワケじゃない。

 いつかの早野くんがイイ例だ。

 紫音センパイも、こちらが不快に思う言動で好意を表現するタイプかぁ。