「おまえのために言ってんだろーが! 甘えてんじゃねーぞ!」

「兄さんみたいにはなれないんだよ、ぼくは!」


 紫音センパイは怜音くんの胸ぐらをつかみ、すごい剣幕(けんまく)で怒鳴っていて。

 怜音くんも負けじと、言いかえしている。

 ふたりとも、雨でびしょぬれだ。


「お、落ち着いてください!」


 わたしが割って入ると、ふたりは動きを止めた。

 怜音くんを自分の傘に入れ、紫音センパイに怜音くんの傘を差しだすわたし。


「おまえ、帰れっつっただろ」


 紫音センパイは怒っているというより、あきれたような表情になっている。

 わたしは、なんだかもう腹が立ってきていた。

 事情はよくわからないけれど、お兄さんだからって、乱暴すぎるよ!


「ずぶぬれの怜音くんを放って帰れるワケないじゃないですか! 紫音センパイも!」


 語気を荒げて、もう一度、紫音センパイに傘を差しだす。


「…………」


 紫音センパイは、怜音くんから右手をはなして、傘を引ったくった。

 その薬指には、きらりと光るシルバーリングがはめられている。



 ――兄さんも同じリングをしていて、おそろいなんですよ。



 怜音くん、とってもうれしそうに話していたっけ。