「ご、ごめんなさい!」


 深々と一礼するわたし。

 お店の素敵な雰囲気を台無しにしちゃったグループのひとり……ではあるから。

 わたしは、カバンと五千円札をつかんで、レジでお会計した。


「おさわがせして、申し訳ありませんでした」


 あらためてマスターにもあやまると。


「あのおふたりには、よく店に来てもらっています。とても仲がいい兄弟だと思うのですが、どうされたのでしょうか?」


 マスターは怒るどころか、心配げな様子。


「大丈夫です! ちょっとこじれてるだけだと思うので。とってもおいしかったです。ごちそうさまでした!」


 早口で言って、お店を出る。

 外はすっかり暗くなって、強めの雨がまだふりつづいていた。

 わたしは、マスターを安心させたくて「大丈夫です」なんて言っちゃったけど、神谷兄弟はちっとも大丈夫そうじゃない。

 すぐ近くにある公園の入り口で、ふたりが言い争っている姿が目に入った。

 お店の傘立てから自分の傘を引きぬくと、怜音くんの傘が残っていることに気づく。

 ふたりを止めなきゃ!

 自分の傘をさして、怜音くんの傘を手に、わたしはふたりに駆けよった。