怜音くんが連れてきてくれたオシャレなカフェ【メゾン・ド・セレニテ】は、おだやかな時間が流れる癒やしの空間だ。
だけど、男女ふたり連れのお客さんが入ってきたことで、不穏な空気が流れはじめた。
ふたりとも、聖ネクサス学園中等部の三年生。
男の子は、怜音くんのお兄さん――神谷紫音センパイ!
高校生といっても通じるくらい背が高く、スタイルばつぐん。
金色に染めた長髪をうしろでくくっていて、肩にギターケースをかけている。
そして何より目を引くのは、息をのむほど美しい顔だ。
「莉子、おまえは帰れ」
紫音センパイが、いっしょに入ってきた女の子に冷たく言いはなった。
莉子とよばれたのは、バッチリとメイクしている大人びた美人だ。
学園でも目を引く容姿だから、見覚えがあった。
「ええっ。どうしたのよ、急に?」
莉子センパイが口をとがらせたけど、紫音センパイは構わず、わたしたちの席までやってきた。
「……兄さん、今日はバンドの練習があるって……」
青ざめた表情の怜音くんは、からだをこわばらせ、ふりしぼるように声を出した。