気まずい沈黙が流れる。

 カラン、カランと、怜音くんがかきまぜているグラスの、氷の音がやけに響いた。


「まっ、吉丸センパイは人気あるから仕方ないですね。競争相手が多いのは覚悟の上ですよ」


 空気を変えるように、明るい口調で言う怜音くん。


「上級生だろうが、ぼく、負けるつもりはないんで」

「怜音くん……」


 イケメン王子たちもふくめ、たくさんの男の子にアプローチされているものの、わたしはハッキリとした態度をとらないでいる。

 うらみごとのひとつも言われたって仕方ないのに、怜音くんは健気だ。

 魅了の魔眼による暗示が、そうさせているのか。

 そもそも、みんながわたしに寄せてくれている好意は、幻みたいなものだ。

 しばらく忘れていた罪悪感が一気に押しよせてきて、胸がズキズキと痛む。


「ぼくが負けるとすれば――」


 怜音くんが言いかけたとき、お店のドアがあいた。


「いらっしゃいませ!」


 マスターが迎え入れる声がした。


「あっ……」


 怜音くんが血相(けっそう)を変えて立ちあがる。


「えっ、どうしたの……?」


 わたしは怜音くんの視線をたどって、ドアのほうを見やった。


「兄さん……」


 怜音くんが、緊張まじりの声でつぶやいた。