「できる、できねーの問題じゃねーだろ。やるしかねー」
楓くんは、めんどうくさそうに肩をすくめた。
「まあ、そうなんだけど、ね……」
わたしは苦笑いを浮かべた。
楓くんの言うとおり、できるできないの問題じゃない。
ふたりの中身が入れかわった以上、演技しないといけないんだ。
樹くんは、ちょっとつり上がっている黒い瞳をやわらげた。
「病院でも怪しまれなかったし、親にもバレずに今のところうまくやれてる。友人関係とか、たがいの情報を交換して把握できれば、たぶん、学校でもなんとかなると思うよ。なっ、楓? そうだろ?」
けれど、楓くんは何か考えごとをしているようにうつむいていた。
「ああ、退院したばっかだから、サッカーは休んだっていいしな……」
ブツブツ小声でそう答えたと思ったら、パッと顔をあげる。
「今思ったんだけど、もう一回いっしょに階段から落ちれば、元に戻るんじゃねー?」