樹くんの姿をしているけれど、中身は本当に楓くんなんだね……。

 思いがけずこんな形になってしまったけれど、帰ってきてくれたんだ。

「わかってるよ。わたしだって、まだ混乱してるもん」

 わたしは楓くんに気持ちを残したまま、病室をあとにした。



      *



 ろうかに出たら、そこは不思議なほど日常の風景だった。

 病棟にいるのに日常だなんて、ずいぶんおかしい気もするけど、本当にそう思えてしまったんだ。

 遠くから聞こえてきた救急車のサイレンが、警報のように聞こえる。

 わたしは立ちつくしたまま必死に考えた。

 楓くんが樹くんとして目覚めたってことは、樹くんは楓くんとして目覚めたってことだ。

 でも本当に、楓くんの中身は樹くんなんだろうか。

 こわい。

 もし楓くんが樹くんじゃなかったらどうしよう。

 それを確かめるためにも、会いにいかなくちゃ……。