わたしは泣いていることにはじめて気づいた。
あわてて涙を拭った。
「ごっ、ゴメン……!」
なんであやまったのか、自分にもわからなかった。
これからがんばろうってときに、泣きたくなんかなかったのに。
勝手に涙があふれ、ポロポロと頬をつたって落ちてくる。制服の胸元に雨粒みたいなシミができた。
すると。
「ひとりでがんばろうって言うなら、おれは止めねーよ。けどな、もうあんなの気にするなよ。また聞こえてきたときは、こうすればいい」
両耳がおおわれて、楓くんの手のひらに包まれた。
まわりの音が聞こえない。
ただ、伝わってくるのは、楓くんのあたたかなぬくもり。
そして、トクントクンと波打つ心臓の音。
わたしは視線をあげて、楓くんをそっと見た。ほほ笑みがかすかに浮かんでいる。
小さい子みたいに泣いているのが、なんだか急に恥ずかしくなった。