「か、楓くん……」

「理子」

 楓くんの黒い瞳の中に、今にも泣きだしそうなわたしがうつっていた。

 たぶん、わたしの目にも楓くんの顔がうつっているはずだ。

「おれがいる」

 小さな勇気のタネのようなものが、ポロッとわたしの中に転がり落ちてくる。

「うん」

 わたしがうなずくと、楓くんはわたしの肩を抱いた。そして、ボーゼンと立っている女の子たちに、「ほら」とわたしのからだを向けさせる。

 勇気を、だすんだ……!

 わたしは自分を奮い起こそうとした。

 けれど、

「「ごめんなさいっ!」」

 彼女たちが裏門へあたふた走っていく姿が、視界にうつったんだ。

 肩から力が抜けていく。

 結局、自分ではどうすることもできなかった。

 何もできなかった。

「ありがとう、楓くん……応援してくれたのにゴメン……」

「気にするな。失敗くらい、何度だってあるさ」