その答えに気をとられて、わたしはハッと動きを止めてしまった。

「あのとき、みたいに……?」

「ああ、樹とうわさになったとき、おまえ落ちこんでいただろ」

 通りすがりの女の子たちに悪口を言われたときのことを言っているんだ。

 楓くんになぐさめられたときのことを思いだしたとたん、胸の奥がキュンとなった。

 手のぬくもりがまだ耳に残っているような気さえするのに、心に影が落ちていく。

 楓くんにキスされそうになったのは、あのあと……。

 わたしは、するりと楓くんのうでを外した。

「もういいよ、楓くん……」

 だって、嫌われているって知っているもん。

 涙がじわっとにじんできそうになったとき。

 楓くんが手を伸ばして、わたしの髪に触れた。

「……嫌ってなんかねーよ。キスのことだって、おれもなかったことにできねーし」

 魔法のような言葉が落ちてきた。