楓くんは、すかさず返事した。視線をサッとわたしの横の何もない空間にずらした。

 わたしにはいろいろ聞いてくるくせに、自分のことを話さないなんて、やっぱりあやしいよ。そして樹くんもだ。

「男どうしの話」とかなんとか言って、階段から落っこちた原因を未だに教えてくれないんだ。もちろん楓くんも。わたしだけ完全にのけ者、蚊帳の外。

 ふたりは考えもしないんだろうな。

 そういう態度がよけいに、わたしを不安にさせているってことを。

 こんな方法はとりたくなかったけれど、話してくれないならしかたがないよね。

 わたしは、楓くんを見すえた。

「いいもん、美代子おばさんに言っちゃう。二回もわたしにキスしかけたこと忘れてないんだからねっ。なかったことにさせないんだからっ」

 楓くんはみるみる真っ赤な顔になった。

「ば、バカ、おまえ! あれは冗談だって言ったろ?」