「はなー、起きなさーい」
「…あと、5分」
私、初川はなびらの朝は、睡魔との格闘からはじまる。
相手は3大欲求がひとり、“睡眠”。
こんなに巨悪な敵と戦うのだ、それなりの時間がかかる。
「はなびらー?」
「…ぅー」
とはいえ、お母さんを鬼にしてしまう方が危険だと知っている私は、愛しのベッドへ悲しみの別れを告げる。
「おはよう、はなびら」
「…おはよー」
「お母さん、もう出るわね。朝ごはんは用意してあるから。
今日も多分定時じゃ帰れないから、夜ご飯、先に食べててね。それじゃあ、行ってきます」
「ありがとー、りょーかい、いってらっしゃい」
母が作ってくれた朝食を頬張りながら、朝のニュースを確かめる。
いまどき、情報が多すぎて困っちゃうわねぇ…。
そんな、私らしからぬ現実的なことを考えながらも、朝の日課をこなしていく。
食器を洗って、顔を洗って、歯を磨いて、髪にゆるくウェーブをかけて、真新しい制服に包まれる。
「…行ってくるね」
今はいない、ある人への挨拶も忘れずにね。
玄関の鍵を閉め、ローファーで軽快なリズムを刻みながら、我が学校へと歩き進める。