「義母さんもいる筈じゃなかったんだけど」



拗ねた感情をはっきりだして,榛名くんがお義母さんに言った。



「あら,榛名くんってば。私は今日用事があるとは答えたけど,朝からいないなんて言ってないわ。あなたが早とちりしたんでしょう」



榛名くんの記憶を失くしたフリは思わぬ収穫をもたらしたようで。

相槌1つ打たない榛名くんに,榛名くんを見舞うお義母さんは毎日少しずつお父さんとの馴れ初めなどを話したと言う。

その幸せや,後悔,考えや,榛名くへのいくつもの失敗を聞くうちに,榛名くん曰く,



『子供みたいに当たるのはやめた』



らしい。

あれら全てフリであったとは,お義母さんは気付いていない。

だから,私も黙っていようと思う。

一度失った記憶も,今は全部思い出している。

それが,榛名くんとお義母さんの真実だ。



「榛名くんの部屋にはテレビとかもないし……私がいて良ければリビングを使ってもいいのよ? どちらにする? お茶とお菓子をお出しするわ」