全身を使うようなその抱き締め方に,いよいよ恥ずかしい。

分かってるのかしら,榛名くん。

私,あなたのこと好きなのよ。

なのにそんな風にしたら,期待でまた涙が出てきてしまいそうなの。



「───好きだよ,ありす。俺は誰よりも,ありすの事が好きなんだ」



目の前がチカチカした。

あまりの衝撃とときめきに,心臓への血液が間に合っていない。



「は,るなくんが,私を?」

「そう,ありすを。出来る限り,君を大事にする。いつでも幸せなように,努力すると誓う。だから,だから,ありす」



俺の,カノジョになって下さい。



私への恋心を全て流し込むように,強く優しく抱き締められる。

なすがままな私。

感情が追い付くより先に,瞳にぷくりと雫が浮かんだ。



「……はい,お願い,します……私も,私も榛名くんのことが,好き……」



頬を撫でられる。

上へ上へと顔を運ぶと,やんわりと笑まれた。



「かわいいね,ありす。次の授業なんて,サボっちゃいたいくらい」



私への話し方をすっかり変えてしまった榛名くん。

年下とは思えない色気と余裕の笑みに当てられながらも,私はあっと声をあげる。



「そうよ,次の授業! 移動だってすずちゃんが言ってたの。急がないと心配かけちゃうわ!」



今度はすんなりと離して貰える。

たたたと駆け出して,私は廊下で一度振り返った。

扉から覗くように,榛名くんを見る。



「あ,の……またね,榛名くん。今日,一緒に帰れたり,なんてする?」

「……もちろんだよありす。誰より早く,迎えに行くね。少しだけ寄り道もしよう」

「……ええ!」



私は怒られないように周囲を気遣いながら,今にも走り出しそうな早足で廊下を進んだ。